160425

父の黒い革靴


靴の磨き方を教えてくれたのは、父でした

靴の磨き方を教えてくれたのは、父でした。
玄関に並んだ靴の片方を持ち上げ、まずはブラシで埃を落とします。次に、使い古しのタオルやTシャツを使い、クリーナーで汚れや古いクリームををぬぐったら、新しいクリームをすみずみまで塗って、最後に仕上げ磨き。もし雨の日などで靴が湿ってしまっていたら、古新聞紙を丸めて詰めて、まめに取り替えると中がよく乾いて、次の日に気持ちよく履くことができる。

家の玄関に座り、父のてきぱきとした手さばきを観察しながら、そんなふうに教わりました。身の回りにお金をかける人ではないので、高級な靴を履いているわけではありませんでしたが、そのぶん手入れをきちんとして、持ち物を長く大切に使うことを教わりました。

そうして靴磨きを教わったのは確か小学生の頃で、それ以来、父を驚かせようと思いついたときには靴磨きをしていました。

日曜の夜にこっそりと玄関に座り、父の革靴を並べて点検をします。使いふるしの歯ブラシで細かい部分の汚れを落とし、靴クリームを塗っては、ごしごしとこすっていました。いま思えば、子供のやる靴磨きですから、汚れも満足に落ちていなかったでしょうし、もしかしたら、靴クリームをたくさん塗りすぎていたかもしれません。(たくさん塗れば塗るほど、ぴかぴかになると思っていましたから)
ともあれ、子供なりに頑張って靴をぴかぴかにし、新聞紙を詰めて、中の湿気もとっておきます。
そして月曜の朝、父親が会社に向かう前にまたコソコソと玄関へ行き、中の新聞紙を抜いて捨てて、最後にもうひと磨きしたあと、きちんと並べて置いておきます。父はわたしより早く会社に向かうので、朝食を取りながら、父がネクタイを締めスーツを着て身支度をしているのを横目で確認し、「じゃあ、いってきます」と玄関に向かう後ろについていくと、必ず父は言ってくれました。

「わあ、僕の靴が、こんなにピカピカになっているぞ!」
父はそうやって大げさに驚いてみせあと、必ずわたしを振り返り、「これ、誰がやってくれたんだー?」と聞いてくれます。それに「わたし!」と誇らしげに答えると、父は頭を撫でて、よく褒めてくれました。自慢気にしているわたしの前で、ピカピカに磨いた革靴に足をいれると、「どう?かっこいい?」とポーズをしながら聞いてくれる、そんな父でした。

あえて気付かないふりをして、わざわざ驚いて見せてくれた父親

大人になって考えてみると、靴磨きのやり方を教えてくれたのは父で、月曜日に向けて日曜の夜からきちんと準備をしておきなさい、と教えてくれたのも、父です。そんな父が、日曜の夜に自分の靴を点検していないわけは、なかったんですよね。それに小学生の娘がコソコソと夜中の玄関で何かをしていて、親が気付かないわけがない。でも、あえて気付かないふりをして、わざわざ驚いて見せていてくれたことに父親の愛情を感じます。

その後、成長して反抗期を迎えたわたしは、父とそれなりにハードな大げんかをしたりするのですが、父は次の日になるとパッとそのことを忘れるタイプで、普通に「おはよう!」と挨拶をしてくれました。反抗期で素直に返事ができないときも、必ず先に「おはよう!」、そして「おやすみ」と声をかけてくれて、仲直りがしやすい状態にしてくれていた。思春期の、しかも気が強くてワガママな娘を持つ男親として、悩んだこともあったかもしれません。それでも常に挨拶と冗談を忘れず、明るい空気を作ってくれていました。

それなのに、どうしても素直になれないとき、わたしがしたのは、父の靴を磨くことでした。
夜中、父が寝たあとに黒い革靴を前に、「ごめんなさい」と思いながら靴を磨き、翌朝、父が出勤するのを見送りました。わたしが子供のときとは違い、大げさに喜んで見せることはなくなりましたが、靴が磨かれているのに気付くと、見送るわたしを振り返りニコッと笑って片手をあげて「行ってきます」と言う父の背中を見送ると、「この間の喧嘩はこれでおしまい」と言われたような気持ちになりました。

父の黒い革靴は、わたしにとって「毎日仕事をしに行ってくれるお父さん」の象徴

父の黒い革靴は、わたしにとって「毎日仕事をしに行ってくれるお父さん」の象徴であり、その靴を磨くことで「いつもありがとう」を子供なりに伝えていて、それを父もしっかりと受け止めてくれていた。週に1回の交換日記のように繰り返されたその習慣が、今でも父とわたしの関係を支えてくれていて、そういう習慣を持たせてくれた父の優しさにハッとさせられました。

父が定年退職してからは、その黒い革靴を見る機会はなくなりました。
わたしもすっかり大人になったし、靴磨きを通じてではなく、直接「ありがとう」を言えるようにならなければいけないなと思います。

あなたにとっての「靴磨き」は、どんなことでしたか?
今日はそんな感じです。
チャオ!

著者プロフィール

hase-100

はせ おやさい

会社員 兼 ブロガー。
はてなブログ(id:hase0831)を中心に活動。好きなものはお酒と読書とインターネット。本業ではWeb業界のベンチャーをうろうろしています。一般女性が仕事/家庭/個人のバランスを取るべく試行錯誤している生き様を、ブログ『インターネットの備忘録』で綴りつつ、「サイボウズ式」にてブロガーズコラム連載中。


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