160604

家族未来予想図


父が亡くなったとき母はまだ40代半ばの自称《女盛り》で「神奈川のモンロー!」「若いエキス吸いまくり!」とはしゃぐ姿には息子の立場から失笑するしかなかったけれども、その女盛りがオーヴァードライブして手を出してしまった下手クソすぎる「独眼竜政宗の岩下志麻のモノマネ」に将来が不安で仕方なかった当時の僕は随分と救われてしまったのも事実なのでおいそれと《自称》と馬鹿に出来ない。

その母もこの秋で70才になる。さすがに女盛りを自称することも、「マサムネェェ!」とクオリティの低いモノマネを披露することもなくなった。お気に入りのニンテンドーDSのテトリスで遊ぶ背中も少しずつ小さくなっている気もするし、鬼のような記憶力も消え失せてしまったけれども、それでもまだまだ元気で僕は嬉しい。65才の定年まで葬儀屋で朝から晩まで働いたおかげで妙な体力がついてしまったとは本人の弁である。

「子供の頃は病気がちな文学少女だった」はこれまた本人の弁なので信憑性は怪しいけれどもガリガリに痩せた母が映った古い家族写真を見るかぎりでは本人の言葉を信じるしかない。父が亡くなって専業主婦を返上して働かなければならなくなったとき、僕には母が強くなったように見えた。人は一人で自発的に強くなるのではなく、誰かのために強くなれるのだと僕はそのとき強く実感したものだ。さいわい、遺された家族全員の奮闘と、あらゆる意味で用意周到すぎた父に救われて僕たち家族は今日まで在り続けている。ありがたいことである。

母からの奇妙な頼み事

先日、実家に立ち寄った際、母から頼みごとをされた。奇妙な頼み事だった。《ジジイになった父の顔を見てみたい》というものであった。「さすがに寂しくなったのか?」僕が茶化すと「自分だけが一方的に年を取ってババアになっているのに向こうだけがいつまでも四十代で在り続けるなんてズルい。不公平だ」と母は言う。この不公平さは絶対に解消出来ない。それならせめてジジイになった父の姿を見て嘲笑するしかないという理屈らしい。なんていい性格をしているのだろうか。そんな母の遺伝子を世界中の誰よりも強く引き継いだであろう僕もジジイになった父を笑ってみたいと思った。いってみれば、これは生きている僕らから亡くなった家族へのスイートリベンジだ。

「もし父が今も存命だったらどんな感じのジジイになっていただろう?」やって来なかったもうひとつの未来について母と話し合った。率直にいって、父が長寿を全うするイメージを持つことは、ひどく難しかった。大量飲酒&大量喫煙&運動不足&不眠症。生前の父のライフスタイルからは無事な老後を想像することがどうしても出来なかったのだ。

老い。病気。障害。それらマイナス要因を踏まえて父がどんなジジイになっていたかを母とディスカッションしそれをもとに似顔絵を描いてみた。無惨な似顔絵が出来上がった。僕の画力の問題もあるが、スキンヘッドで眉毛を剃り落としたベビーフェイスな父は全体的にタコやイカのようにツルツルしており加齢を加味したところでシワのあるコロ助(キテレツ大百科)の域を出るものにはどうしてもならなかったのだ。母と超爆笑。

父の未来を探る冒険

しかし、コロ助では死んだ父が浮かばれない。僕は思案した結果スマホの老化アプリというものを使ってみることにした。被写体を老化させるという素晴らしいアプリである。亡くなる直前の父を撮った写真を取り込んで老化加工してみた。あれ?僕は目を疑った。老化させたはずの父にそれほど変化がなかったからだ。サイズが小さく鮮明でないピンボケ気味の写真の中にいる生前の毛がない父は老化アプリで加工をしてもシワが増えていくだけであったのだ。キレイすぎる。こんなキレイなジジイで終わらせては、父の未来を探る冒険をキレイなままで終わらせてはいけない。

父によく似ているといわれる僕が父の代役を務めることになった。眉毛をバンドエイドで隠し自撮りして老化。結果は痛々しいものであった。そこにはもし不摂生の限りを尽くしていた父がジジイになったらというifが必要以上にリアルに表現されていた。加齢を超えた老い。内臓疾患を思わせる肌の色。「生々しくって面白くないね」母が真顔で言った。「そうだね。これ俺だけどね」僕は言った。そう遠くないうちに訪れるであろう自分自身の暗い未来を垣間見てしまい複雑な気分であった。

僕は思う。死者は無敵で無敵は不公平。無敵すぎて不公平な死者をバカにしたりネタにしたりして笑うくらいでちょうどいいのではないかと。母とあとどれだけこういうバカバカしい時間を持てるかわからない。財産や地位や評価などではなく、こういう時間をどれだけ持てるかが人生の価値なのではないかと最近僕は割とマジで考えている。そのためにはとりあえず不摂生な生活を改善しなければならない。真剣にバカをやって生きていくには案外真面目に人生に取り組まなければならないのだ。

著者プロフィール

fumiko100

フミコフミオ

海辺の町でロックンロールを叫ぶ不惑の会社員です。ここ10年は食品業界の片隅で生息しております。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて15年、現在の主戦場ははてなブログ。内容はナッシング。けれどもなぜか上から目線。更新はおっさんの不整脈並みに不定期。でも、それがロックってもんだろう?ピース!


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